今回は多摩美術大学ガラス科を卒業され、あづみ野ガラス工房に就職し、その後あづみ野ガラス北工房に於いて、吹きガラス及びとんぼ玉をメインに制作を続けている松浦あかねさんにお話を伺います。
1 大学でガラスを選択されたきっかけは・・・ガラスとの出会いは何ですか?
=元々は陶芸を志望していたのですが、浪人の年の秋に竹橋の工芸館で『近代日本のガラス工芸』展を観たとき、素材としてのガラスの魅力に惹き付けられ、ガラスのことを学んでみたいと思いました。そして翌年、運良く多摩美術大学のクラフトに入学できました。当時、多摩美はガラスコースのある唯一の大学だったのです。
2 卒業後あづみ野ガラス工房に行かれましたが、そこを選ばれた理由は?
あづみ野ガラス工房での経験は如何でしたか?
=卒業後はガラス会社に就職することが決まっていたのですが、最後の春休みに、大学でガラスを吹きながら「こんなに楽しいこと、やっぱり止められない」と思いました。先生に相談したところ、ちょうど「あづみ野」に欠員があって勧めて下さったのです。
あづみ野ガラス工房は、作家として独立するまでの研鑽の場で、任期は3年から5年です。ガラスを志す仲間と苦楽を共にし、5年間貴重な経験を重ねることができました。地域の方々にも暖かく見守っていただき、頑張れば頑張るほど応援してくださりました。
3 あづみ野ガラス工房の後北工房で独立されましたが、どのような経緯でしたか?
=多くの方々にお世話になっていたので、できればずっとこの地で制作活動を続けたいと思うようになりました。一方、旧豊科町には「あづみ野ガラス」を豊科の特産品として根付かせたい、との考えのもと、質的向上と生産力のアップを目指した「第二工房」設立の構想がありました。そのような経緯があって、私が運営を任される形で「あづみ野ガラス北工房」が建てられることになったのです。
4 一年の仕事のサイクル又仕事のスタイルを教えて下さい。
=だいたい3ヶ月熔解を続けて3ヶ月休止する、といったサイクルで年に2回火を入れます。火が入っている時は午前中に6時間ホットワークを行い、午後は前日に吹いた作品の後加工などをしています。集中的にホットワークだけを行い早く火を消してしまう方が効率が良いのですが、作品を毎日研磨しながら確認するのも大切なことだと考えています。
熔解炉の休止期間は主にとんぼ玉制作をしています。吹きの作業とは違って小さなバーナーで手軽に作れるという利点もあるのでとんぼ玉もずっと続けて行きたいです。
5 あかねさんの作品はガラスならではの色使いがとても素敵で、とにかくガラスのフォルムが美しい。どのようなことに気を使っていらっしゃるのですか?
=色ガラスの使い方は無限にあって大変興味深く感じます。各々の色の持っている特性を利用して効果的に作品制作に取り入れたいと考えています。
ホットワークで気を付けている点は、必要以上にガラスに触らないということです。基本的なことですが、なるべく、吹いてできた張りのある形や、遠心力で拡がろうとする動きなどを活かすことが大切だと思います。他の素材では決してできない生き生きとした形は、ガラス工芸の大きな魅力のひとつではないでしょうか。
6 作品からは「日々の日記」のようなイメージもあります。好きなこと影響を受けているものは何ですか?
=作業中はいつもクラシック音楽を聴いています。ピアノの音色は特に大好きで、リサイタルにも時々足を運び大いに感動しています。
それから、安曇野は北アルプスの景色が素晴らしく、ただ眺めているだけで心が洗われるような、とても幸せな気持ちになります。豊かな自然にいつも刺激を受けながら暮らしています。
7 大変な震災も起こり心が痛いばかりではなく、これから世の中がいろいろ変わっていくと思います。これからの仕事に対する思いをお聞かせ下さい。
=3月11日以降、改めて自分の無力さに苛まれ続けました。でも、安曇野に来た頃の純粋な気持ちを忘れず、これからも努力して行きたいと思っています。ガラス工芸を取り巻く状況も益々厳しくなるばかりですが、臨機応変に工夫して何とか楽しく続けたいものです。
8 また若い方たちに何か伝えたいことなどアドバイスがありましたらお願いします。
=あづみ野ガラス工房にも意欲溢れる新人が毎年来ています。私などは近くに居るだけで見守ることしかできませんが、とにかく自分の感性を信じて邁進して欲しい、と切に願っています。
あかねさんに好きな音楽家は誰ですか?とお聞きしたらベートーヴェンと答えが返ってきました。その理由をたずねてみたら、「無駄な音がひとつもないから。」とのことでした。自然体でやさしいフォルムの作品を制作されているあかねさんの中に、無駄なものをそぎ落とす意志の強さを感じました。それが作品の中の凛とした表情に表れているのだと感じます。ありがとうございました。
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